2度目の合コンに行った話

 

1. 誘い

合コン、それは新しい出会いを求めてお互いを知らない独身者が集まる飲み会や食事会。

そもそも、最近の合コンなんてもともと「男女合同コンパ」が正式名であろうのに、男しかいない合コンなんてもはやどのあたりが合同なのか、とツッコミを入れてはいけない。

ことの発端は、年に一、二度顔を出すか出さないか程度のバーのママからのLINEだった。

「牛丼くん、合コン参加しない?八方不美人の某さんも来るよ」

詳細情報もなく少し迷ったが、とりあえず行く旨の返事をした。
出会いこそまったく期待していないが、某さんも来るし、エンタメコンテンツとして面白そうじゃないか。

後日、日程と参加人数の連絡は来たが、それ以上の詳細は不明。参加者の平均年齢すらわからない。わかるのは、たぶんみんな東京近辺に住んでいる男好きの男ということだけである。

さぁどれだけカオスな空間になるんだろうか。

実は男性のみの合コンは人生で二度目で、一度目は院生のときに友人の主催者から誘われて行ったものだった。
結果としては、その場で話す以上の関係には誰も発展せず、僕に関しては「参加者のなかで2番目にタイプのひとを指差すゲーム」で誰からも指されないという大惨敗で終わった。

全員1番目であったと信じるしかないが、今回はリベンジしたいところである。

そんな確固たる意志を持ってその日を迎えた。

 

2. 火鍋屋

当日の日が暮れたころ、この数日自分の中で再燃しているSuchmosのSTAY TUNEを聴きながら、会場の火鍋屋に到着した。

火鍋屋かぁ。知り合いも何人か火鍋屋に行っていたし、最近はガチ中華でも流行っているんだろうか。
まぁそんなことはどうでも良い。

今回の参加者で知っているのは主催者の1人のみで、あとは顔も名前も知らないひとたち。逆に知っているひとが来たらそれはそれで気まずかったかもしれないが、果たして生きていけるのか。

 

さぁ参加者がどんどん集まってきた。皆初対面のなか店の前で待つこの空間、なんとも気まずい。本当に当たり障りのない会話で場を繋ぐ。

全員が集まったところでいざ入店。
個室へ案内され、なんとも皆ぎこちない雰囲気だ。ひとまず全員で鍋とビールを注文。

鍋用のタレを取りに行き、皆再度席に着く。
さぁ、その間に届いていたビールを片手に自己紹介のお時間である。個人の印象を左右する重要な時間だ。


紹介する項目はこうだ。

・名前
・身長体重年齢
・タチorウケ
・趣味

なんとゲイらしい内容だろうか。どこぞのビデオの撮影でも始まるのだろうか。

そんなことを思っていたら主催者から順に自己紹介が始まった。
聞いていると、筋肉モリモリお兄さん、女装歌手お姐さん、コンサルお兄さん、TOEIC満点英検一級お兄さんなどなど個性が強い。

そしてついに僕のターンが来た。主催者からは「大学院で言語の受動態を研究をしていたひと」という紹介をされた(なぜか毎回そうなのだが)。

この紹介を受けるとだいたい皆

「てことはウケなの?」

という反応をする。

「受け」の真髄を求めて研究をしていたわけでもないし、若干癪である。多方面で言われてもう慣れてきたが。

紹介項目はひとまず無難に答えた。
無難すぎてつまらなかった気もしている。

 

自分のターンを終え、火鍋を突いて食べたい具材を取る。牛肉、野菜、鴨の血豆腐。

口にした瞬間、心底感動した。
絶妙な辛味とスパイス感。美味い、美味すぎる。

数年前に食べた同店の火鍋の印象が良くなく、それ以来嫌厭していたが、この数年間人生損をしていた気がした。もはや他のひとの自己紹介なんぞどうでも良くなるくらいだった。いっそのこと火鍋と付き合いたい。

火鍋という素晴らしい出会いがあった時点で、すでに今日の目標は達成されたと言っても過言ではない。

そんなこんなで全員の自己紹介が終了し、ラストオーダーの時間となった。早すぎる。人気店ということもあるのか、1時間でラストオーダーであった。

若い子はどんどん食べ!

と年長のかたが言ってくれたが、ここでがっついてははしたない気がして少しだけ食べて終わりにした。

正直、遠慮の塊だらけで結局食べずじまいだったのが非常に惜しい気持ちだが、ここは合コンだ。おしとやかにいこう。


3. バー

さて、火鍋屋を出たところで二次会をどうするかである。

しかし、今回の参加者は某バーの客という共通点があった。つまり、行く先に他の選択肢はない。全員でバーに押し寄せるのである。

徒歩圏内にあったので、全員で歩いて向かう。
自己紹介の内容を突っ込んだりと、先ほどよりも堅い雰囲気が解かれながら歩いていく。

 

店に到着し、参加者のなかに店長もいたので店の鍵を開けてもらい、全員でズカズカと入店する。

全員が席に着いたところで、店長が開口一番に

「今から紙を配るので、このなかで1番タイプのひとの名前を書いてください!マッチングすれば私から個別に連絡します」

と言った。

はい、出ました。このお時間。

しかも今回は前回とは違い、2番目ではなくトップである。だが、周知はされないのでまだ良い。前回のような地獄は味わなくて済む。

店長、全員の好みがわかって1番楽しいポジションだろうなぁ、立場を交換してほしい。

 

店長から紙とペンが配られ、いざ記入タイムである。
僕は待ち合わせのときに少し話していた、なんとなくかわいいな〜と思っていたかたの名前を書いて提出した。

全員分の回収が終わったあと、そのまま年長のかたが養命酒ソーダ割りを注文したのだが、なぜか謎のチャレンジ精神で全員追従することとなり僕も漏れずそれを注文した。

薬草くさくて癖が強いのかと思っていたが、飲んでみると案外あっさりして飲みやすい。
これで多少健康になれるなら、悪くないかもしれないと思った。

初めは、全員で養命酒を片手に話していたが、だんだんと個別で話していく時間となった。

そのとき、僕が紙に書いたかたが話しかけてくれ、SNSを交換することとなった。キタコレである。

その後いくらか会話をし、彼は終電があると言って帰ってしまった。


そのあとは、彼との会話途中に店に入ってきたまったく知らない数人と会話をしていた。

話をよく聞くと、海外旅行が好きなひと、同業種で海外出張によく行くひと、など趣味の合いそうなひとたちであることがわかり、彼らともSNSを交換した。

 

後日、DMで食事の誘いをいただいたりもしたが、今後どうなっていくのだろうか。

4. 知らない世界

バーに限らず、大学や職場も含めて大人になるにつれて関わっていくひとたちは、あのとき、あの場で、あの決断をしていなかったら、一生関わりのなかったであろうひとたちの集まりである。

そのひとに出会ったからこそ初めて行く場所、世界なんかもたくさんあり、自分の知らない世界は本当に広いなと実感する。

例えば、ゲイで知り合ったひとに影響を受けていなかったら、今ごろ旅行もそれほど好きでなかった気がするし、語学ものめり込んで大学院まで進むことにはなっていなかったと思うし、院進していなければ(コロナの影響で)今の会社には入れなかった。

彼らがいなかったら今ごろどうなっていたのだろうか。

出会いって本当に不思議なものだ。

「意味のない」話

 

意味のない行動に意味はあるのか?

 社会人になって半年が経とうとしている。

 

4月からの数ヶ月に渡る怒涛の研修を終え、夏から現場に入ってやっと社内で人権を得られるような仕事が始まった。

 

現場に入ってからもっとも感じたことは、ひとつひとつの行動に意味や目的が求められるということだ。

 

社内のひとやお客さんとの会話、メール、タスク、いずれにしても何か目的があり、成し遂げなければならないからこそ行われる。

無意味に行っていては当然ながらお叱りが入る。

 

まぁ、働くからにはサービスやらモノやら形の有無を問わず何かを生み出さなければならないし、当然のことだ。

 

しかし、そのしきたりが僕の考え方を変える大きなきっかけとなった。

 

学生と社会人

 

 社会人になる前の学生のころは、意味なんかなくても好きなことをしていたらある程度それで許された。

大好きだった語学だって、現地に行く予定もなければ話す機会もまずない言語を好きに学習し、研究していた。

 

「そんなこと研究して何になるの?」

 

なんて聞かれることもあったが、聞きたくなる気持ちもわかる。

 

僕自身も何か世間の役に立つ研究をしようだとか考えたことはないし、研究結果が何の役に立つか今聞かれてもはっきりと答えられる自信はない。

 

そもそも、文系理系問わず世の中に本当に役立つ研究をしているというほうが少ないのかもしれないが…

 

それに対して、社会人となると、1分や1時間でも給料が発生しており無駄な行動は基本的に許されない。休日でさえ勉強やらで削られることもある。

 

 

行動に対して「意味」が求められているからだ。

 

 

そんな、行動に「意味」を求める生活をしばらくしていたら「意味」のある行動に価値を見出してしまうようになった。

 

意味のある行動をすれば評価が上がり、

意味のない行動をすれば評価が下がる。

 

やるからには評価されたいから意味のある行動を取る、という単純な動機である。

 

 

それからというものの、意味のある行動に対する価値観は仕事以外にも適応されるようになった。

 

あれだけ好きだった語学(特にいわゆるマイナー言語)も「これをやって何になるのか?時間と労力を割く価値はあるんだろうか?」と考えるようになってしまった。

 

語学に限らず、基本的に何をするにも実利や意味を考えるようになった。

 

これは過去の自分を大きく敵に回すような考え方だ。

 

意味のない行動に時間と労力を全力で費やしていた過去の自分である。意味のない行動にこそ意味があると考えていた過去。

 

現在の環境のせいだとも言いたくないが、自分のなかで、意味のない行動が意味のある行動の価値より下がってしまったことが、とても寂しい。自分が自分でなくなってしまったかのような感覚。

 

考え方なんて生きていればいくらでも変わるだろうし、致し方ないといえばそうなのかもしれない。

 

ただ、その寂しさに浸っているだけである。

 

結局

 

冒頭に挙げた「意味のない行動に意味はあるのか」という疑問に対する僕のなかでの答えは、「考え方次第」というものだ。

 

なんだそんな答えかと思われるかもしれないが、そのときのそのひとの考え方によって違うだろし、そもそも行動に対して「意味」があるかの定義なんて言ってしまえば価値観によってまちまちである。

 

そもそも、この話自体もただの思考整理というか、オチも特段なく、ただ文章を書きたかったという「意味のない」話なのだが。

 

初めて発展場に行った話

 

 発展場、性欲漲るゲイ男性の集う場所。

僕はゲイとして産まれたが、そこに行ってまで発散したいとはこれまで考えたこともなかった。そもそも自分の容姿に自信がなく、そこに行ったところで誰からも誘われず、こちらから誘ってもはじかれて虚無になって帰って来るだけだと思っていた。しかし、ずっと気になっていたのだ。いったいどんなひとたちがいて、中はどんな構造でどんな雰囲気か。

 

ある日、そんな僕の疑問を友人の集まりで話した。

「え、なら行ってみようよ」

友人のこの一言が僕の発展場デビュー企画の発端である。僕がついにあの発展場へ行くこととなったのだ。いや、本当に行くのか…?実感は湧かない。

 

それから時が経ち、年が明けて新年会兼僕の発展場デビュー企画が開催される日となった。まさか新年初の都内での用事が発展場になるとは…今年はどうなることやら。

僕は友人の誰よりも先に現場へ向かい、発展場の看板の前まで来た。ヤル気満々だったから、というわけではなく、記念撮影のために早く到着したのだ。デビュー記念の一枚を。

 

看板の前でひとりで記念撮影をしていると、一匹のおじさんが発展場へ向かうエレベーターに吸い込まれていくのが見えた。

僕がおじさんを見ていたとき、おじさんもまたこちらを見ていたのだ。

それもそうだ。発展場の看板の前でひとりで記念撮影しているんだもの、カミングアウトも良いところ。

 

入店

記念撮影を終えた僕は友人との集合場所に戻り、そこで落ち合った。そして、友人と話しながらそのまますぐに例の発展場へと向かった。

雑居ビルのエレベーターに乗り、発展場のある階まで友人は送ってくれた。あとは僕が目の前にある扉を開けるだけである。が、僕は扉の前で緊張のあまりあたふたしていた。

「すぐ上に防犯カメラあるから中のひとに見られてるんじゃない?」

えっ…あっ…これはいけない。小慣れた雰囲気を出さなければ。初心者丸出しはみっともない。そう思い、勇気を絞りに絞って小慣れたような涼しい顔で扉を開けた。

 

「こんにちは〜。〇〇円ですね」

マジックミラー越しにスタッフが話しかけてくる。スタッフ側からは客の容姿全体が見えるのだろうが、こちらからは金銭を受け取る手先しか見えない。

「コ、コンニチハ、エッアッッハイ」

支払いだけであたふたしてしまった。小慣れた雰囲気作戦、入店3秒で失敗。そしてスタッフからタオル一枚とロッカーの鍵を受け取り、いざ中へと進む。

渡された鍵番号のロッカーの前まで来た。荷物をしまって服を脱がなければならない。さぁ荷物を入れるぞ。

あれっ…ロッカーが開かない……えっ?

そう、僕は逆に鍵をかけてしまっていたようだ。そんなボケを数分続けていた。小慣れた雰囲気作戦ここでも失敗。もう救いようがない。

 

ロッカーにすべてをしまった僕は中へと進んだ。

あれ…?明るくない?シャワールームとトイレしかない…みんなどこいるんだ?

とりあえず目の前にあったシャワールームでシャワーを浴びる。身体を洗ったのはいいものの、外に出てキョロキョロしていると初心者がバレてしまうので、一旦退散しロッカーへと戻った。スマホを取り出し、友人に「シャワーとトイレしかない、部屋どこにあるんだろう」とメッセージを送った。するとこう返事が来た。

 

「頑張って探しな」

 

それはそうだ。現場には僕しかいないんだから頑張るしかない。どこかに部屋の入口があるはずだ。

 

神殿

意地でも初心者丸出しを避けたい僕はもう一度涼しい顔で中へと向かった。すると、シャワールームの近くに黒い暖簾がかかっているのを見つけた。

あった!ここだァァァ!入るぞ!失礼しま〜す!

とでも言うかのように恐る恐る暖簾をくぐった。

 

すると、そこには通路に沿って全裸男性が股間を隠しながら古代遺跡の石像の如く列を成して立っているではないか。その列は奥にまで続いている。中にはアヌビスのような立ち方をしているひともいる。部屋が薄暗いということもあり、神殿そのものである。

 

通路は非常に狭く、成人男性が横向きにギリギリふたり通れるほどの幅である。つまり、通ればほぼ必ず石像と身体が擦れる。

 

さらに、ここにいる石像はただ立っているわけではない。通る者の品定めをするのだ。身体が触れれば通る者の下から顔までチェックする。目が合ってしまえば神殿奥の部屋へと攫われる可能性すらあるのだ。

僕はなるべく石像の顔を見ずに「スイマセン…アッゴメンナサイ…トオリマス、スイマセン…」と唱えつつ、長い通路を通り神殿奥まで辿り着いた。その途中では、無事に奥部屋での儀式を終えた生還者ともすれ違った。ただでさえ狭い通路には石像があり、行く道は本当に狭い。すれ違うときには「アッサキドウゾ」と唱えて生還者を優先させるのだ。

辿り着いた神殿の奥には小さな部屋がいくつもあった。その部屋からは甲高い声や激しい音が聞こえ、僕の緊張はさらに高まる。

ワッスゴイ…とりあえず下見完了、退散ッ!脇目も振らずそそくさロッカーのところまで戻った。一旦お茶を飲んで休憩。

 

さぁもう一度。暖簾をくぐり、スイマセンッスイマセンッと唱えつつまた奥まで辿り着いたところで、今度は奥部屋の近くの通路に、石像のいないスペースがあることに気が付いた。

 

自分の石像ポジションを見つけたのだ。そこに立ってあたふたしていると、またしても小慣れた雰囲気作戦が失敗してしまう。そんなことは避けたい。だから僕は慣れたようなすまし顔で立っていることにした。

 

ヘーラクレースともったいないばあさん

そんな無駄な努力をしばらくしていると、何かが僕の肩に触れるのを感じた。気になって僕は触れられた方向を見た。すると、ひとりの神殿探検者が奥部屋を指さしているのが見えた。

彼はまるで神殿の主かのような佇まいで、いわゆるゴリマッチョである。ギリシア神話での最大の英雄、ヘーラクレースを彷彿とさせる。令和の発展場でのヘーラクレースの再来である。

そして、彼によってついに僕も奥部屋に入ることが許されたのだ。奥部屋へと進むと、漫画喫茶のような黒いクッション生地の床にソファーボックス、ローション、ティッシュボックス、そして大量の使用済みティッシュが捨ててあるゴミ箱が配置されていたのが見えた。部屋のライトはピンクである。鍵はないが内側からトイレのドアのようにロックを掛けることができる。

 

中に入り、彼は僕にソファーに腰掛けるよう指示した。いったい何が起きるんだ。

彼は僕と向き合うような体勢で床に跪いた。なんとなく恥ずかしく僕は若干上を向いていたが、しばらくしてなんだか暖かくぬるっと包まれたような感覚を下に覚えた。えっ…上手い…上手すぎる……。これまでに感じたことのない舌使いと絶妙な力加減。一言、極上である。

驚きの隠せないまま極上に浸っていると、彼は口を離してソファーに股がるよう僕に言った。そして言われた通り、僕は股がった。

すると、彼はローションを手に取って僕の下に垂らし、そのまま握って上下運動を始めた。

まるでこれまでに僕としたことがあり、僕のツボを熟知しているような見事なグリップ加減で、スピードも切らさない。全知全能のゼウスの血を引いたヘーラクレースなだけあるのかもしれない。それから5~10分ほどであったか、彼の熟練のテクニックにより僕は昇天してしまった。

 

そのあとはすぐにロッカーへと戻り、休憩を取り、もう一度中へと向かうことを決意した。一回だけではもったいないと、心に住むもったいないばあさんが囁いたのだ。

 

二度目の探検では、ひとりの石像と目が合いそのまま奥部屋と行ったが、僕は途中で一度目のヘーラクレースとの冒険で体力を使い果たしていたことに気付き申し訳ないと思いつつも途中で退散してしまった。惨敗。

 

そのままロッカーへ戻り、服を着て、友人に終わりを報告した。そして、新年会の集合場所で待ってくれている友人たちにいち早く出来事を共有すべく急ぎ足で向かった。

 

発展場

これまでの話は入口の扉を開けてからほんの1時間程度の出来事であったが、雑居ビルの一間にある神殿のこれまでに感じたことのないあの空気感は、今後忘れることはないだろう。あそこで会ったひとびとは皆一期一会で、神殿の外ではもう会わない、むしろ気まずくてもう会いたくない存在となってしまう(僕は特段気にしないが、たぶん相手は気にするだろう)。なんと儚い出会いなことか。

 

いや、そんな刹那的な出会いだからこそ相手を魅力的に感じるのかもしれない。それが発展場という場所である。

 

グルジア語(ジョージア語)の勉強方法の話

はじめに

 はじめまして、喋る牛丼です。

 今回このグルジア語の勉強方法についての記事を書こうと思ったきっかけは、これまでグルジア語の勉強方法のガイドライン的なものがあまり広く知られておらず、自分で教材を調べてもどれが良いのかまったくわからずどう勉強したら良いのか困った経験が過去にあったためです。

 前もって申し上げますが、筆者は一介のグルジア語学習者に過ぎないため、記事内容に関して至らぬ箇所もあるかと思います。ご指摘・ご助言大歓迎なので、何か気が付いた点などありましたら筆者のツイッターアカウント(@Lets_gyudon)までご連絡お願いいたします。

 最後に、この記事で紹介する勉強方法(特に単語の勉強方法)は筆者のやり方に過ぎず、他の方法や教材もあることが大いに考えられるのでご参考程度にお願いいたします。また、もしここで紹介している教材以外で良いのものがありましたら、そちらの方法でもぜひ勉強してみてください。

 

目次

 

グルジア語ってどんなことば?

 グルジア語についてここで簡単に紹介します。グルジア語は、話者は400万人程度でジョージアアメリカの州名や某缶コーヒーのほうではありません)やトルコ北東部、イラン西部*1で話されています。ジョージアと言えば、牛丼チェーンの松屋で伝統料理シュクメルリが期間限定メニューに並んで、日本国内でのジョージア知名度が一気に上がったのが記憶に新しいですね。

 また言語そのものの特徴としては、

  • 文字が独特(გამარჯობათ! gamarjobat! /「こんにちは」の丁寧な言い方)
  • 特に動詞の変化が非常に複雑(慣れるまでは根気が要りますが慣れてしまえばこちらの勝利)
  • 放出音と呼ばれる、他の言語にあまり観察されない聞いた感じ強めの音がある
  • 能格という特殊な格変化がある(過去時制やごく一部の現在時制のみ)
  • 子音の連続が多い(例:მწვრთნელი mtsvrtneli / トレーナー、コーチ)

などが挙げられますが、なんというか、どちらかと言えば学習する気が失せそうな要素ばかりですね…。一方で日本語と似ている点を挙げると、動詞に意味を持ついろいろな要素をくっつけるところや語順が(英語などに比べ)比較的自由なところ、文字は基本的にそのまま読めば問題ないという点などです。

グルジア語の教材

文法書編

 ではさっそくおすすめの教材を紹介していきます。まずは文法書からです。

 

①『ニューエクスプレス+グルジア語』(児島康宏 著, 白水社

www.hakusuisha.co.jp

 言わずと知れた、世界の言語の入門書『ニューエクスプレス+』シリーズのグルジア語です。筆者個人としてはグルジア語の勉強を始めるならまずこの本でグルジア語への免疫をつけてから次へ進むのがおすすめです。グルジア文字はもちろんのこと「グルジア語ってこんな文法なんだ~」と広く勉強することができます。この本の良い点を2点挙げてみます。

  • ダイアログの音声を聞くことができる
  • 日本語で書かれている

 まず1つ目については、グルジア語の紙媒体の教材で音声を聞くことのできるものは私の知るなかではこのニューエクスプレス+が唯一です。2つ目の日本語で書かれているという点は、『ニューエクスプレス+グルジア語』が日本語で勉強できるほぼ唯一の教材のためです。ほぼというのは、もう一冊日本語で書かれたグルジア語の教材(『グルジア語文法』(佐藤信夫・飯島紀 著, 国際語学社))があるのですが、こちらはあまり評価が良くなく、そのうえ価格もニューエクスプレス+の倍以上で図書館などでも入手しにくいためです。

 

② 'Georgian: A Readong Grammar' (Haward I. Aronson 著, Slavica)

http://www.seelrc.org:8080/grammar/pdf/stand_alone_georgian.pdf

 『ニューエクスプレス+グルジア語』を終えたら(もちろん内容をすべて理解していなくても構いません)、次にAronsonの "Georgian: A Readong Grammar" をおすすめします。なんとこの本はPDFで無料で読むことができます(リンクは上に載せたものです)。紙媒体が欲しい場合は、ペーパーバックであれば1万円弱でアマゾンで購入できます。

www.amazon.co.jp

 この本自体は初版1982年(ジョージアソ連の一部だった時代!)で少し古いですが1990年と1997年に修正版が出版されました。グルジア語の教材と言えばまずこれといった存在で内容はかなり濃く、ニューエクスプレス+でわからなかったところもここで詳しく理解できると思います。全体として500ページ程度のかなりのページ数になっていて気が滅入りそうですが、実際の文法解説はその半分くらい、残りの半分が練習問題や辞書、変化表などになっていてグルジア語読解の際の文法辞典としてもかなり役に立ちます。ただ、難点(?)を挙げるとすれば、英語で書かれている点(文法の専門用語を除いては比較的平易な英語ではあります)や、文章読解問題の全訳が載っていない点です。

 

③ 'Georgian Language and Culture: A Continue Course' (Haward I. Aronson & Dodona Kiziria 著, Slavica)

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 こちらは、本の名の通り先に挙げた"Georgian: A Readong Grammar"の続編です。 'Georgian: A Readong Grammar' で相当の読解力は身に付くと思いますが、さらに詳細な格の用法や動詞の時制の意外な使われ方などが「文法編」に載っていたり、「読解編」ではグルジア語の長い会話や、ジョージアを代表する近代の作家を中心とした小説を読むことができます。しかし、読解編の会話のほうには部分的な文法解説はあるものの全訳がついていないのが難点です(小説のほうには訳はしっかいついています)。

 また、前編のように無料公開されているPDFは筆者の調べる限りではなく、アマゾンなどでで購入する(2021年現在1万円程度)か、会員登録制のPDFダウンロードサイトでダウウンロードするか、もしくは借りられるところはかなり限られてきそうですが図書館に頼るといった手段があると思います。

 

単語帳編

 グルジア語の単語の覚え方についてですが、これがまた厄介です。というのも、いわゆる「単語帳」のようなものがないためです*2

 筆者はアマゾンで見つけた 'Georgian Vocabulary: For English Speakers'(T&P Books)といういかにも怪しそうな単語帳を使っていました。最近『グルジア語の語彙本』という名前で同じ内容の日本語版が出ていることを知ったので、そちらのリンクも貼っておきます。以下は英語版のレビューとなりますが、質や内容は日本語版とそれほど変わらないと思います。

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 実際に使ってみたところ、やはり怪しく、まさに英語の語彙をそのままグーグル翻訳にかけた感じで英語とグルジア語の訳が合っているのはおおよそ7割くらいでした(筆者の感覚)。そのため、載っているグルジア語の単語をひとつひとつ辞書で調べ、間違っていれば正しいほうの単語を書き込んでいくという作業をひたすら繰り返していました。

 さらにこの本のもうひとつの欠点は、単語とその意味がただ載っているだけで例文がひとつも載っていないところです。以上の2点ですでに単語帳としてかなり致命的なのですが、筆者の調べる限りでは単語帳はこの本しか見つかりませんでした…。欠点ばかり挙げてしまいましたが、もちろん良い点もあります。それは、スポーツや食べ物、重要な動詞など分野別に単語が並んでいて、それぞれの単語を関連付けて覚えやすいところです。

 また、この本のほかに筆者が単語を覚えるために行ったもうひとつの方法は、文法編で紹介した本で勉強しているうちに出てきた単語をノートなどに書き出す方法です。これは単語帳の有無に関わらず、自分の覚えにくい単語をあとで何度も見返すという意味でかなり有効だと思います。

 

辞書編

 続いて、語学において欠かせない辞書についてです。辞書についても文法書同様、英語で書かれたものが主です。

グルジア語ー英語辞書

 紙媒体のものであれば 'A Comrehensive Georgian-English Dictionary'(Donald Rayfieldほか 著, Garnett Press)がおすすめです。

www.amazon.co.jp

これは二巻セットで情報量もかなり多いのですが、とても持ち歩ける大きさではないうえ(今測ったところ縦28㎝、横20㎝、幅11㎝ほどでした)、価格もそれなりにするので、筆者は以下で紹介するオンライン辞書を利用しています。

www.lexilogos.com

一見海外の怪しそうな翻訳サイトに見えますが、先にご紹介した 'A Comrehensive Georgian-English Dictionary' も含め、いくつかの辞書の検索結果も出てくるため、ある程度の信用は保証されていると思います。

英語ーグルジア語辞書

 グルジア語作文の際にも非常に役立つ辞書として、Comprehensive English-Georgian Dintionary Online をご紹介します。このオンライン辞書は、ジョージアの首都トビリシにある国立大学の言語学者を中心に作成されているもので、信憑性はかなり高いです。また「covid-19」と検索してもわかるように、社会環境の変化などにもよって常に内容が更新されています。

dictionary.ge

 

オンライン教材編

 最後にオンラインでグルジア語を学習できるコンテンツを4つご紹介します。

 

① Online De グルジア

 まずは、日本語が流ちょうなジョージア人講師のケティ先生によるオンラインレッスンです。学生にも優しい価格帯で受講ができ、先生もひとつひとつ丁寧にとても優しく教えてくださるのでおすすめです。また、マンツーマンレッスンなので自分のペースで受講できるのも魅力です。

www.online-georgian.com

 

②朝日カルチャーセンター グルジア語講座

 次に、朝日カルチャーセンターで開講されているオンライン講座です。グルジア文学を研究されている五月女颯先生による講座なのですが、筆者はこれまで参加したことがなく感想を述べることはできないので、ここではご紹介のみになります。

www.asahiculture.jp

 

③ユーチューブチャンネル

 こちらはジョージアの大学院で言語学を専攻されているRyosei先生によるユーチューブチャンネルです。日本語で、しかも無料でグルジア語の基礎文法を詳しく学ぶことができるため、初めてグルジア語に触れる方にも非常におすすめです。

 

④GeoFL

 最後に、「GeoFL」というグルジア語学習サイトをご紹介します。CEFR(セファール)と呼ばれる欧州協議会が制定した語学力の基準をもとに作られており、初学者向けのA1レベルから上級者向けのC1レベルの教科書やその音声を聞くことができます。しかし、現段階(2021年12月現在)では、Lerner's Dictionaryなど開発途中で使うことのできないコンテンツもあります。

geofl.ge

おわりに

 これまで紹介してきた教材、特に文法書編で紹介した本はすべてかなりの良書です。ですが、「はじめに」でも述べた通り、本記事で紹介した勉強方法(特に単語の勉強について)は筆者のやり方に過ぎません。また、もしこれまで紹介してきたもの以外に良い教材などがありましたらぜひ筆者にもご教示いただければ幸いです。

 最後に、この記事がグルジア語を勉強してみたいという方の参考に少しでもなれば、あわよくばグルジア語を勉強してみたいという方が少しでも増えれば、記事を書いた者としてこの上ない喜びです。最後までお読みいただき本当にありがとうございます!

 

*1:意外なところですが、17世紀にサファヴィー朝(地域としてはイランが主ですが現在のジョージアの一部まで勢力を伸ばしていました)によって連れてこられたジョージア人の子孫が現代でもグルジア語を話しています。彼らのことをイランの地名からファリーダンジョージア人(Fereidani Georgian)やイランジョージア人(ირანის ქართული iranis kartuli)と呼んだりします。

*2:もしあるのをご存知のかたがいればぜひ教えてください…!