グルジア語(ジョージア語)の勉強方法の話
はじめに
はじめまして、喋る牛丼です。
今回このグルジア語の勉強方法についての記事を書こうと思ったきっかけは、これまでグルジア語の勉強方法のガイドライン的なものがあまり広く知られておらず、自分で教材を調べてもどれが良いのかまったくわからずどう勉強したら良いのか困った経験が過去にあったためです。
前もって申し上げますが、筆者は一介のグルジア語学習者に過ぎないため、記事内容に関して至らぬ箇所もあるかと思います。ご指摘・ご助言大歓迎なので、何か気が付いた点などありましたら筆者のツイッターアカウント(@Lets_gyudon)までご連絡お願いいたします。
最後に、この記事で紹介する勉強方法(特に単語の勉強方法)は筆者のやり方に過ぎず、他の方法や教材もあることが大いに考えられるのでご参考程度にお願いいたします。また、もしここで紹介している教材以外で良いのものがありましたら、そちらの方法でもぜひ勉強してみてください。
目次
グルジア語ってどんなことば?
グルジア語についてここで簡単に紹介します。グルジア語は、話者は400万人程度でジョージア(アメリカの州名や某缶コーヒーのほうではありません)やトルコ北東部、イラン西部*1で話されています。ジョージアと言えば、牛丼チェーンの松屋で伝統料理シュクメルリが期間限定メニューに並んで、日本国内でのジョージアの知名度が一気に上がったのが記憶に新しいですね。
また言語そのものの特徴としては、
- 文字が独特(გამარჯობათ! gamarjobat! /「こんにちは」の丁寧な言い方)
- 特に動詞の変化が非常に複雑(慣れるまでは根気が要りますが慣れてしまえばこちらの勝利)
- 放出音と呼ばれる、他の言語にあまり観察されない聞いた感じ強めの音がある
- 能格という特殊な格変化がある(過去時制やごく一部の現在時制のみ)
- 子音の連続が多い(例:მწვრთნელი mtsvrtneli / トレーナー、コーチ)
などが挙げられますが、なんというか、どちらかと言えば学習する気が失せそうな要素ばかりですね…。一方で日本語と似ている点を挙げると、動詞に意味を持ついろいろな要素をくっつけるところや語順が(英語などに比べ)比較的自由なところ、文字は基本的にそのまま読めば問題ないという点などです。
グルジア語の教材
文法書編
ではさっそくおすすめの教材を紹介していきます。まずは文法書からです。
①『ニューエクスプレス+グルジア語』(児島康宏 著, 白水社)
言わずと知れた、世界の言語の入門書『ニューエクスプレス+』シリーズのグルジア語です。筆者個人としてはグルジア語の勉強を始めるならまずこの本でグルジア語への免疫をつけてから次へ進むのがおすすめです。グルジア文字はもちろんのこと「グルジア語ってこんな文法なんだ~」と広く勉強することができます。この本の良い点を2点挙げてみます。
- ダイアログの音声を聞くことができる
- 日本語で書かれている
まず1つ目については、グルジア語の紙媒体の教材で音声を聞くことのできるものは私の知るなかではこのニューエクスプレス+が唯一です。2つ目の日本語で書かれているという点は、『ニューエクスプレス+グルジア語』が日本語で勉強できるほぼ唯一の教材のためです。ほぼというのは、もう一冊日本語で書かれたグルジア語の教材(『グルジア語文法』(佐藤信夫・飯島紀 著, 国際語学社))があるのですが、こちらはあまり評価が良くなく、そのうえ価格もニューエクスプレス+の倍以上で図書館などでも入手しにくいためです。
② 'Georgian: A Readong Grammar' (Haward I. Aronson 著, Slavica)
http://www.seelrc.org:8080/grammar/pdf/stand_alone_georgian.pdf
『ニューエクスプレス+グルジア語』を終えたら(もちろん内容をすべて理解していなくても構いません)、次にAronsonの "Georgian: A Readong Grammar" をおすすめします。なんとこの本はPDFで無料で読むことができます(リンクは上に載せたものです)。紙媒体が欲しい場合は、ペーパーバックであれば1万円弱でアマゾンで購入できます。
この本自体は初版1982年(ジョージアがソ連の一部だった時代!)で少し古いですが1990年と1997年に修正版が出版されました。グルジア語の教材と言えばまずこれといった存在で内容はかなり濃く、ニューエクスプレス+でわからなかったところもここで詳しく理解できると思います。全体として500ページ程度のかなりのページ数になっていて気が滅入りそうですが、実際の文法解説はその半分くらい、残りの半分が練習問題や辞書、変化表などになっていてグルジア語読解の際の文法辞典としてもかなり役に立ちます。ただ、難点(?)を挙げるとすれば、英語で書かれている点(文法の専門用語を除いては比較的平易な英語ではあります)や、文章読解問題の全訳が載っていない点です。
③ 'Georgian Language and Culture: A Continue Course' (Haward I. Aronson & Dodona Kiziria 著, Slavica)
こちらは、本の名の通り先に挙げた"Georgian: A Readong Grammar"の続編です。 'Georgian: A Readong Grammar' で相当の読解力は身に付くと思いますが、さらに詳細な格の用法や動詞の時制の意外な使われ方などが「文法編」に載っていたり、「読解編」ではグルジア語の長い会話や、ジョージアを代表する近代の作家を中心とした小説を読むことができます。しかし、読解編の会話のほうには部分的な文法解説はあるものの全訳がついていないのが難点です(小説のほうには訳はしっかいついています)。
また、前編のように無料公開されているPDFは筆者の調べる限りではなく、アマゾンなどでで購入する(2021年現在1万円程度)か、会員登録制のPDFダウンロードサイトでダウウンロードするか、もしくは借りられるところはかなり限られてきそうですが図書館に頼るといった手段があると思います。
単語帳編
グルジア語の単語の覚え方についてですが、これがまた厄介です。というのも、いわゆる「単語帳」のようなものがないためです*2。
筆者はアマゾンで見つけた 'Georgian Vocabulary: For English Speakers'(T&P Books)といういかにも怪しそうな単語帳を使っていました。最近『グルジア語の語彙本』という名前で同じ内容の日本語版が出ていることを知ったので、そちらのリンクも貼っておきます。以下は英語版のレビューとなりますが、質や内容は日本語版とそれほど変わらないと思います。
実際に使ってみたところ、やはり怪しく、まさに英語の語彙をそのままグーグル翻訳にかけた感じで英語とグルジア語の訳が合っているのはおおよそ7割くらいでした(筆者の感覚)。そのため、載っているグルジア語の単語をひとつひとつ辞書で調べ、間違っていれば正しいほうの単語を書き込んでいくという作業をひたすら繰り返していました。
さらにこの本のもうひとつの欠点は、単語とその意味がただ載っているだけで例文がひとつも載っていないところです。以上の2点ですでに単語帳としてかなり致命的なのですが、筆者の調べる限りでは単語帳はこの本しか見つかりませんでした…。欠点ばかり挙げてしまいましたが、もちろん良い点もあります。それは、スポーツや食べ物、重要な動詞など分野別に単語が並んでいて、それぞれの単語を関連付けて覚えやすいところです。
また、この本のほかに筆者が単語を覚えるために行ったもうひとつの方法は、文法編で紹介した本で勉強しているうちに出てきた単語をノートなどに書き出す方法です。これは単語帳の有無に関わらず、自分の覚えにくい単語をあとで何度も見返すという意味でかなり有効だと思います。
辞書編
続いて、語学において欠かせない辞書についてです。辞書についても文法書同様、英語で書かれたものが主です。
グルジア語ー英語辞書
紙媒体のものであれば 'A Comrehensive Georgian-English Dictionary'(Donald Rayfieldほか 著, Garnett Press)がおすすめです。
これは二巻セットで情報量もかなり多いのですが、とても持ち歩ける大きさではないうえ(今測ったところ縦28㎝、横20㎝、幅11㎝ほどでした)、価格もそれなりにするので、筆者は以下で紹介するオンライン辞書を利用しています。
一見海外の怪しそうな翻訳サイトに見えますが、先にご紹介した 'A Comrehensive Georgian-English Dictionary' も含め、いくつかの辞書の検索結果も出てくるため、ある程度の信用は保証されていると思います。
英語ーグルジア語辞書
グルジア語作文の際にも非常に役立つ辞書として、Comprehensive English-Georgian Dintionary Online をご紹介します。このオンライン辞書は、ジョージアの首都トビリシにある国立大学の言語学者を中心に作成されているもので、信憑性はかなり高いです。また「covid-19」と検索してもわかるように、社会環境の変化などにもよって常に内容が更新されています。
オンライン教材編
最後にオンラインでグルジア語を学習できるコンテンツを4つご紹介します。
① Online De グルジア語
まずは、日本語が流ちょうなジョージア人講師のケティ先生によるオンラインレッスンです。学生にも優しい価格帯で受講ができ、先生もひとつひとつ丁寧にとても優しく教えてくださるのでおすすめです。また、マンツーマンレッスンなので自分のペースで受講できるのも魅力です。
②朝日カルチャーセンター グルジア語講座
次に、朝日カルチャーセンターで開講されているオンライン講座です。グルジア文学を研究されている五月女颯先生による講座なのですが、筆者はこれまで参加したことがなく感想を述べることはできないので、ここではご紹介のみになります。
③ユーチューブチャンネル
こちらはジョージアの大学院で言語学を専攻されているRyosei先生によるユーチューブチャンネルです。日本語で、しかも無料でグルジア語の基礎文法を詳しく学ぶことができるため、初めてグルジア語に触れる方にも非常におすすめです。
④GeoFL
最後に、「GeoFL」というグルジア語学習サイトをご紹介します。CEFR(セファール)と呼ばれる欧州協議会が制定した語学力の基準をもとに作られており、初学者向けのA1レベルから上級者向けのC1レベルの教科書やその音声を聞くことができます。しかし、現段階(2021年12月現在)では、Lerner's Dictionaryなど開発途中で使うことのできないコンテンツもあります。
おわりに
これまで紹介してきた教材、特に文法書編で紹介した本はすべてかなりの良書です。ですが、「はじめに」でも述べた通り、本記事で紹介した勉強方法(特に単語の勉強について)は筆者のやり方に過ぎません。また、もしこれまで紹介してきたもの以外に良い教材などがありましたらぜひ筆者にもご教示いただければ幸いです。
最後に、この記事がグルジア語を勉強してみたいという方の参考に少しでもなれば、あわよくばグルジア語を勉強してみたいという方が少しでも増えれば、記事を書いた者としてこの上ない喜びです。最後までお読みいただき本当にありがとうございます!